再評価される古典的療法

お尻にやさしい古典的療法

現在、痔の治療法は外科的療法が主流であり、近年の医療技術の発展や進歩とともに様々な新しい方法が考えられるようになってきました。一方では、最近になってお尻にやさしく後遺症の少ない古典的療法に専門医の注目が集まるようになってきました。これは古典的療法が解剖学的にも正しい方法で予想以上に根治性が高いこと、肛門の機能に対して非常に穏やかな方法であることが再認識されたからです。

日本の古典的療法は、江戸時代の後期に華岡青洲や本間棗軒によって完成されました。現在も私たちのように古典的療法を伝承・実践している専門医が存在していますが、残念ながら熟練を要するためその数は極めて少ないのが現状です。

東洋
薬物療法を中心とした非観血的療法(内科的)が主体で種々の漢方薬、民間薬、針灸などが考えられた。日本では特に民間療法が多く見られる。
1. ナンテン、イチジク、ドクダミ、カタバミ、ヨモギなどを煎じる。
2. ナメクジをゴマ油に浸し痔に塗る。
3. ヒルに痔を吸わせる。
4. 痔に針を指す。
5. 糸で痔をくくる。
東洋説明図
西欧
観血的療法(外科的)が主体で現代の肛門外科の基礎を成す。11世紀頃はナイフで切る、焼きゴテでつぶす、木バサミではさんで落とすなどの荒療治が中心であった。
西欧説明図

「痔」治療の歴史

肛門疾患の歴史は古く、紀元前からその記録が残っています。

 
古代エジプトでは、紀元前1500年頃に薬物療法の記載があり、紀元前400年には今日の医学の原点でもあるヒポクラテスの医学書の中に痔疾患の治療が述べられています。
 
古代インドでは、BC.4000年頃のアーユルヴィーダーから発展、紀元前400年頃に完成した医書に痔疾患の治療法が記載されています。
 
中国では、紀元前1000年頃の周時代に始まり、「黄帝内径」や「傷寒論」に痔について詳しく書かれています。その後の様々な医学書にも治療法が記されていて、明の時代にはほぼ完成しています。
瘍科秘録

わが国でも、718年「養老律令」の注釈書に出てくるのが最初ですが、江戸時代に華岡青洲および本間棗軒によって完成されました。

その具体的方法については『瘍科秘録』(1837年本間棗軒著)に詳しく記載されています。ところが、1980年頃には古典的療法はごく一部の施設だけで細々と「秘伝」として伝承されているにすぎなくなっていました。

古典的療法は、実は解剖学的にも合目的で、予想以上に根治性が高く、肛門機能に対しても愛護的な方法です。ですから、私達はこれらの治療法を「秘伝」として伝承するのではなく、今日の肛門病学の立場から客観的に評価してきました。

つまり、1995年の「古典的な痔瘻根治術」、1997年の「裂肛に対する古典的療法」および1998年の「古典的な痔核結紮療法」として日本大腸肛門病学会誌に発表したのです。これは1994年田澤らによってインド伝承医学であるKshara Sutraを用いた痔瘻結紮法を報告したことが引き金となっています。(注:結紮〈ケッサツ〉=生体の一部をしばること)

その頃から起こってきたわが国の医療情勢の変化から、元来、古典的療法が外来治療と自宅療養を原則としていることに着目され、今日的な「日帰り手術」に十分対応できることも、再認識されるきっかけになったようです。